野城研究室の研究テーマには二つのキーワードがあります。


一つは「サステナビリティ」という言葉です。野城は、研究者としてヨチヨチ歩きをはじめた1980年代から「このまま、いままでと同じことをしていては、建築も都市も、そして社会も経済もダメになってしまう」という想いを日々強くしていきました。建築の雨仕舞に関する研究を皮切りに、建築の耐用性に関する研究の世界に浸り、既存建築ストックの寿命実態や維持保全に関する研究をすすめるうちに、90年代初頭には、「ダメになってしまうのを防ぐにはどうしたらいいか?」という問題意識が研究の中核に据えられるようになりました。建築の寿命実態がいまのまま進んでいけば、やがて膨大な建設廃棄物が生まれてしまうことを試算し、これを踏まえて1992年には住宅の解体実態調査を本格的に実施しました。この研究論文・レポートが国内外で注目を浴びて、建築のサステナビリティに関する国際的な研究者コミュニティに加わることになり、以来10年余、研究室の看板に「サステナビリティ」という言葉を掲げ様々な研究を展開してきました。

もう一つは「マネジメント」という言葉ですいままでのエンジニアリングにおける課題は、

1)明確簡明に定義され、
2)ある一つの原理が全体システムを記述でき、
3)事前予見が可能で、
4)意思決定者の数も限られ、
5)規範にまで議論が及ぶこともないこと、

が暗黙の前提になっていました。

しかし、いま私たちが眼前にしている、エンジニアリングに関連した課題を解いていくためには、このような暗黙の前提群に懐疑的にならざるを得ない状況となっています。例えば、いままでのエンジニアリングでは、建物の長期間使っていくためには、これだけの維持改修保全が必要であるというアウトプットを出し続けていました。しかし、それは予算的制約が一切ないという暗黙の前提で出されたアウトプットでした。一定の予算制約があった場合、どのように維持改善すればよいのか、その差配をしていくための知識体系づくりは、若干おろそかになってきたように思われます。

マネジメントとは、まさにこのような差配の問題を扱うもので、

1)全てを明確に定義できない、
2)一つの原理だけでは全体システムを記述できない、
3)全てを事前予見することは困難、
4)様々な意思決定者がいる、
5)場合によっては規範にまで議論が及ぶ、


のいずれかに当てはまるような課題を「解く」または対応するための知です。

「サステナビリティ」と「マネジメント」がキーワードというと、時代の流行を追っているようで面はゆいのですが、当研究室では従前からやってきたことです。たまたま、昔からやってきたことが世の中の流行になってしまった、というのが率直な気持ちです。

大学の研究室には二つの役割があると思っています。一つは、学理の追求です。もう一つは、学理・理論を検証・具現化したプロトタイプの提示です。野城研究室では、学理の追求だけでなく、このプロトタイプの提示にも熱心に取り組んでいます。技術は、実際にやってみて始めて本質的な課題が見えてきます。いいかえれば机上でうまくいくと思っても、思いもよらぬ隘路が潜んでいたりします。プロトタイプの提示に熱心である理由の一つは、そんなところにあります。

さらにもう一つ理由があります。いま世の中にある、解かねばならぬ課題と、私たちが貢献できる範囲との間には距離があります。なぜなら、これらの課題を解くには、様々な専門化が手を結び合うアプローチ(integrated approach/integrated solution)が必要だからです。しかし、その手を結び合うアプローチが、世の中全体が硬直化・官僚化したのかなかなかうまくいきません。ならば、大学の研究室がその触媒役を買って出よう、そんな、まず隗よりはじめよ精神でプロトタイプづくりに挑んでいます。